MIZUKAZE PROJECT STORY

瑞風プロジェクトストーリー

May 2024

vol.29

伝統製法で仕上げた但馬の特別な日本酒を「瑞風」の思い出に

 第29回目は、「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」ご乗車のお客様限定に販売している「瑞風オリジナル」商品の開発ストーリーをご紹介。沿線の逸品を自宅でも楽しんでいただきたいという想いから、兵庫の「香住鶴」と連携し、特別な日本酒を仕立てました。「生酛 雫酒 純米大吟醸 G2.20」について十代目当主の福本和広さんにお話を伺いました。

自然の力を活用した伝統的な酒造り

 雄大な日本海と美しい山並みが続く山陰本線を旅する「瑞風」。その沿線にあるJR香住駅は、ユネスコ世界ジオパークに認定された山陰海岸沿いに位置し、松葉ガニのブランド、香住ガニの水揚げ港があることでも知られています。そんな豊かな自然と海の幸に恵まれたまちで、「香住鶴」は江戸時代の享保10年、1725 年に創業しました。
香住鶴では伝統的な酒母(しゅぼ)造りにこだわり、手間ひまのかかる「生酛(きもと)造り」や「山廃(やまはい)仕込み」といった伝統製法ですべての日本酒を仕上げている、全国的にも珍しい酒蔵です。その味わいは、まろやかながらも切れ味が良く、旨みがあって料理を引き立てると人気を博しています。
「日本酒を造るために酵母を培養したものを酒母といいますが、現在は、仕込みの際に既製の乳酸を加え、清酒酵母のみを純粋培養した速醸系と呼ばれる酒母が一般的。造りやすく再現性が高いのが特徴です。これに対し生酛造りや山廃仕込みで造る生酛系の酒母は、自然界の乳酸菌や微生物を利用して清酒酵母を培養したもの。

香住鶴株式会社 代表取締役
十代目当主 
福本和広さん

蔵についた乳酸菌が自然に増殖するのを待つ必要があり、あとの工程も含め時間や手間がかかりますが、その分、蔵独自の味わいに仕上がります。これら速醸系と生酛系との一番の違いは、味わいの立体感。生酛系のお酒は、たんぱく質が分解されたペプチドの含有量が多く、折り重なって奥行きがある重層的なイメージ。これは速醸系には出せない特色です」(福本和広さん/以下同)

酒造りの原点に戻り、独自の味わいを追求

 江戸時代から続く生酛造りでは、米の溶解や糖化を促進させるため、酒母の仕込みに使用する米と麹を櫂(かい)で破砕する山卸(やまおろし)という作業を行います。
その工程を廃し、米、麹、水を混ぜて造るのが山廃仕込み。精米の技術が発達し、麹の糖化作用が働きやすくなったことで明治時代に確立されました。
「こういった伝統製法は、大正から昭和にかけて速醸酛が全国の酒蔵に普及したことにより廃れていったそうです。香住鶴でも速醸酛を採用していましたが、1967年頃、八代目の祖父が『もっと旨みのある酒を造りたい』と杜氏に相談したところ、『それなら山廃だろう』と」
こうして山廃仕込みを復活させました。その後、世の中で山廃ブームが起こり、さらに原点に戻ろうと、1999年には九代目の父が、手間のかかる生酛造りに挑戦。当初は失敗が続きましたが、試行錯誤の末、完成に至ったといいます。
「私が蔵に帰ってきた2011年からは、より独自の味わいを追求しようと、すべての仕込みで生酛系の酒母を使うようにシフトしました。生酛系には、人手や経験、時間が必要。香りや見た目で判断する部分もあるので、数も多く造れませんが、日本四大杜氏に数えられる但馬杜氏が真心を込めて、丹念に仕上げています」

「山卸」は舟を漕ぐときに使う櫂(かい)と呼ばれる道具で、
米と麹を丁寧にすりつぶしていく

素材となっている米は、兵庫県産の酒造好適米。仕込みに使っている水は、兵庫県の最高峰である氷ノ山を源とする清流、矢田川とその支流の地下深くから汲み上げた伏流水で、醸造に適した特性をもっています。生酛系の酒は、時間をかけて熟成させることで、さらに旨味が引き出され、まろやかな味わいになります。香住鶴では生酒などを除く全日本酒を、半年から1年以上の熟成期間をもたせてから出荷。「瑞風」車内でのご提供でも好評を博しています。

若き当主のこだわりが詰まった「瑞風」のための逸品

「鉄道好きの息子が『瑞風』のファンなので、列車が香住のまちを通るところをよく見に行っているんですよ。オリジナル商品のお話も、とても光栄なこと。せっかくなら『瑞風』にふさわしい、特別な酒に仕上げようと、粒の大きい良質な米だけを使おうと提案しました」
一般的な酒米は1.95ミリ、酒米の王様と称される山田錦なら2.05ミリのふるいにかけますが、今回、用意したのは2.20ミリ。山田錦のなかでも、とくに良質なものができる兵庫県の特A地区で育てられた特上米をふるいにかけ、半分ほどしか残らない分だけを厳選したというから驚きです。
「醪(もろみ)を酒と酒粕に分ける工程も、圧搾機は使わず、すべて手作業です。醪を布袋に詰めて吊るして集める雫酒にし、酒に負荷をかけず、香りが飛んだり雑味が出たりしないよう、細やかに、丁寧に仕上げました」

しかもそれらを二分して仕込み、最終的により良く仕上がったほうを商品化するというこだわりよう。こうして完成したのが『生酛 雫酒 純米大吟醸 G2.20』。豊潤でなめらかな旨味と上質で爽やかな香り。濃いけれども喉ごしが良く、冷酒でも燗酒でもおいしく召し上がれます。
「山廃よりさらに熟成に向く生酛で造りました。ふくらみのある、柔らかな味わいは、生酛ならではの仕上がり。香りが劣化しにくく、長期間置いても薔薇のような芳香が漂います。たとえ好評であっても定番化はしないスペシャルなお酒です。香住鶴のお酒が地元但馬で愛されているのは、魚介類をはじめ地元の食材と合うように造っているから。脂の載った料理との相性も抜群です。ぜひお料理と合わせて、『瑞風』での旅を思い出していただければ幸いです」

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